生前会ったことのない曾祖父が、私に虫眼鏡をくれたそうだ。
今だとどこで手に入るのだろう、あの昔ながらの虫眼鏡は。私が小学生の頃に学校の授業で使っていたそれは、柄の部分がかなり太くて、成長途中の私の掌には持ちにくかった。何よりひどく重かった。手首に力をこめていないと、分厚いレンズが重力に惹かれてすぐに傾ぐのだ。
あの頃の私が、その屈折から何を覗いていたのかはもはや覚えていないが、
曾祖父は、その虫眼鏡で地面を見てみろと言った。
促されるままに、厚さ1センチ弱はあるであろう懐かしいガラスを覗けば
そこには土があり、土の隆起があり、ツブツブとし、ざらざらとし、ふかふかとしている。
ちぎれた葉や枝、砂粒、見えない種子がいりまじる。日なたの土は、ふれると温かくて気持ちがいい。
無音の世界だが、いま目の前にあらわれた現象に音をあてるとするならば、
「ぷぁちン!」という感じ。芽吹きの音だ。小さな可愛らしい破裂音。
水滴。
花がほころぶ。
不思議なこともあるのだな。
これらは一月ほど前に、いわゆる「見える」知人から教えてもらったのだ。
だから、すべては彼女の言葉を通して間接的に伝えられたことばかりなのだが、
それだのになぜか、私はこれらの美しい景色を確かに見たことがあると思った。
私の眼が見つめる先は。