ヨウシュヤマゴボウ

先日、私の赤毛犬がヨウシュヤマゴボウの実を食べた。
その日のうちに嘔吐し、ご飯も一晩食べなかった。
調べてみれば、有毒植物。
人間が食べても食中毒のような症状が出るという。

たくさん水を飲み、吐くものも吐き、ぐっすり眠ったおかげで翌朝にはけろっとしていた。
安心する一方で、危なく自分も食べるところだったから冷や汗をかいた。

***

相棒の赤毛犬と暮らして4年になる。
町中での彼女はまあアレなのだが、
山の中では頼りにしている。

少し先を歩いては私のもとに戻り、
また先の方へ走っては、また私のもとに戻りを繰り返す。
遅くて悪いネ、こちとら四駆じゃないので遅いのだ。

時には私が率先して頼られる側になることもある。
いつだったか、急斜面の岩場を下りなくてはならないときがあった。
さすがに飛び下りるのは無理だと悟ったらしく、私の後ろへ退く赤犬。さて、どうしようか。
いろいろ考え、私はお尻をついてすべり台を真似ておりることにした。
それから左腕をのばし、相棒の胸にストッパーのようにしてあてがう。
相棒は合点が早く、私の腕にからだごと寄りかかり立ったままの恰好で私のすべり台方式を採用してくれた。
「ステイ、ステイ、ステーイ…」と言いながら一緒にゆっくり滑り下りる。
息がぴったりで嬉しかった。

自然の中で信頼し、信頼されを続けるうち、
彼女が犬であることが関係なくなってきた。
共存仲間、サバイバル仲間、とかそういう感じだ。
パートナー。

だから(というとそんな無茶苦茶なと言われるかもしれないが)、
この秋は、犬が食べているものならば
私も食べれるのではないかという思考になって、
一緒になっていろいろな実を食べた。

栗はもちろん、木瓜の実、カリン、ヤブランの実…
※大きい実は犬が飲み込む前に取り返す。

大抵は美味しくないので、ひとかじりする程度なのだが、まあ食えんこともない。

それで、先日のヨウシュヤマゴボウだ。
いかにも葡萄のように美味しそうな見た目をしているから、私もつい、この植物の思惑通りに手をのばすところだった。

人間なのだから、本やネットで十分な知識を得てから満を持して食うという手があるのに、そんな当たり前のことにこの期に及ぶまで気が付かなかった。

私は犬に近付いたのか?
“彼女が犬であることが関係なくなってきた”
とは言ったけど、
私自身が人間であること。
これはまだ、手放すには早いんじゃないか。

ヨウシュヤマゴボウ