熊よけの_

熊よけの_

熊よけの
赤き点滅
鵺の声

夜。半月の光が一筋も届かぬ深い雲の連なり。そういう夜は何となく危うい。
私は人家の少ない野道を歩いていた。周りは牧草地や山、密とした針葉樹林。かつて大手通信会社が休暇施設として利用していたホールのような建物が見えるが今は使われていない。施設の敷地内には自然散策コースとして整地されただだっ広い区画もあるが、そこも今ではぼうぼうと草が生え、道案内の手作り風の看板もはや朽ち始めている。

ピーヒョロウという声がした。
夜も八時を過ぎているがこんな時間に鳶など飛ぶだろうか。空を見上げる。姿はない。
ピーヒョロウ。また声がする。頭(かぶり)を振って空を見上げるが星一つ見えずましてやはり鳶はいない。
不思議なこともあるものだ、とまた歩き始めると、今度はウキャキャキャキャキャキャと猿のような声がする。続いてヒヨドリのようなけたたましい声。夜に似合わぬカラ属の囀り。クアアウクアアウ。鴉の声。また鳶。そして、しまいにはコケコッコーという朝の鶏。

こんな鳥はこの世にいない。
少し気味が悪くなって、今度は空ではなく地上を見つめる。すると、少し歩いた先の家の外壁に赤いランプが点滅しているのが見えた。二階の窓のすぐ下で、機械的でリズムでぷつぷつと光り、その度にログハウス風の洒落た住居を赤く照らしている。

電気はついておらず、車もない。どうやら今夜は留守らしい。はあ、そういうわけで害獣避けのランプをつけたと見える。

ピーヒョロウ、ウキャキャキャキャキャ、ピョロピョロ、コケッコーウ、ウキャキャキャキャキャ。

闇夜に響く奇怪な声に、私の原始はおののいて。

十月十八日