リンドウ

 

「リンドウ、もらってってくださいね」
仕事先の女性から、帰りがけにこう声をかけられた。そういえば気になっていたのだ。入ってすぐの待合室に、リンドウの花がぎっしりつまったバケツが3つも置いてあることに。花農家さんから譲られたのだろうと容易に想像がついたが、バケツの円周いっぱいに窮屈そうに押し込められていて、水の吸い上げが悪く茶色く色褪せているものもあった。それじゃ、枯れさせてしまうよりはお言葉に甘えて…と右手いっぱいにひとつかみ、左手いっぱいにひとつかみ、小脇にはさんで一束と、遠慮なくたくさんもらって帰ってきた。

リンドウの花の色を何と形容したらよいのだろう。紫色とも、碧色の、とも言いがたい。漆黒のようにまじりけのない高貴な純潔を感じるが、その純潔が善であるか悪であるかがわからぬ感じがいい。花弁がひらききらない花の形も何かを秘めているようで。

何せ、竜の胆だからな。

すでに与えられてある名前を読み上げ、ああ、太刀打ちできぬ、いい得て妙だと思ってしまった。名も知らぬ先人たちによる漢字。

リュウノヒゲの実。
リンドウの花。
ことごとく、あのまじないのような碧紫は確かに竜の臓腑に違いない。