何だったのだかわからない

何だったのだかわからない

夕方、奥の野生の庭に赤犬を放してやる。

散歩に連れ出してやれなかったので、存分に走らせる。

私はというと、今日一日ごくろうさんと自分を適当に労って、ぼーっとして過ごす。

 

赤犬が吠える声がする。

小走りに駆けつけると、ひとかかえほどの落葉が積もる何てことのない盛り上がりに向かって吠えている。

モミジ、サクラ、ユリノキ、ナラ。

庭の一面に鮮やかな紅葉黄葉が落ちていてこの庭は今が一番美しい。

けれどもなぜか赤犬は、ある一点にのみワンワンワンワン吠えているのである。

 

鼠でもいるのだろうか。それは困る。私は本当に鼠が苦手だ。

しかし、これほどに吠えるなら何かあるに違いない。

どぎまぎしつつ覚悟を決めて、右足の爪先のそのさらに先っちょで件の落ち葉をよけてみる。

無論、体はのけぞらせ、いつでも逃げられるようにして。

 

しかし、何もいない。

ミミズやムカデですらいない。

私は大胆になり、すぐそばにしゃがみこんで両手で落ち葉をかきわけ始めた。

その間も赤犬はワンワンワンワン、まだ何かに向かって吠え続けている。

ところがである。私が想像していたようなものは何一つ現れない。

一緒に確認していた赤犬に、何もいないじゃないかと声をかける。

 

ただ、赤犬からすれば今も目の前に「異物」はいて。

 

赤犬は、私が地面をのぞきこみ一枚一枚検分していた葉のうちのたった一枚、

黄色いユリノキの葉一枚に向かってワンワンワンワン吠え続けていた。

 

見た目には、表にも裏にも何もついていない。

野良猫のしっこでもかかっていたのか?

 

私がその葉をつまみあげると尚それに向かって吠え続けた。

いったい何であったのか見当もつかない。

 

奇妙な出来事。