仕事の書類を印刷にかけ、印字された紙が吐き出されるのを手持ち無沙汰に眺めているときにふと、
ああ、亡くなったんだと頭をよぎる。
品のいい佇まいに美しい白髪が揺れるその人。
とても親しいという間柄でもなかったけれど、
一年に一度、晩年には数年に一度お会いするたびにいつも、私の心に置き土産に残していく人だった。
きれいな方だなぁという小さな憧れ。
訃報が飛びこんだ翌日は日がな一日、思い出を呼び水にして心はそこらをぶらつき帰って来ない。
からだの所在も方々(ほうぼう)に散り、地に足がつかぬ。
氷上で、私は我に返った。
外を歩けば道は透明に氷りついている。
ああ、転びたくない。転ばないようにしよう。
一歩ずつ、慎重に。足の裏に力をこめる。
踏みしめるたび、氷上のザラメのような粗い雪がスノーブーツのゴム底と擦れ合ってぎゅむぎゅむと音を立てる。
自然と腹に力がこもる。
心よからだよ、戻って来い。