起きがけ、目を覚ますと珍しく穂の名がそばにいない。

いつもであれば同じベッドの上で寝坊すけの私を静かに待っているというのに。

さては、と寝たまま耳を澄ます。

するとやはり、台所の方でがさこそがさこそ何かやらかしている音がする。

 

正解。ドッグフードのサンプルを噛みちぎり、袋だけは綺麗に残して中身は全部食べていた。

ふうん、と無反応にただ淡々とそれらのごみを片付ける。

穂の名を視界にいれてやらず、いつものおはようの挨拶と撫でての誘いを

拒むでもなくただ一切何の反応もしてやらない。

さて、どう出るかしら。

穂の名はくしゃみを続けざまに4度した。

くしゃみはあくびと同じく、犬のストレスサインである。

妹犬に戯れ絡まれ逃げられないときにもよくやっていた。

いつものルーティンが得られない=くしゃみ4連発クシュンクシュンクシュンクシュン!

そんなにだったか、と思わず吹き出し、いつも通り幸せに「おはよう、おはよう」と声をかける。

 

今日は、穂の名のことばがよくわかる日だった。

彼女の一挙手一投足。ボディランゲージ。鼻のわずかなひくつき。

耳。眼差し。目線。主張(吠え)。

あらゆるコミュニケーションの会話信号を全て拾えた日だったと思う。

不思議な、そして何とも至福の日だ。

こんなに何でもないことが。

そう。ソファの下奥に転がっていた妹犬のおもちゃを

穂の名も長らく欲しがっていたとは知らなんだ。

何やらそわそわしているので「教えて」と聞くと、

ソファの下に頭隠して尻隠さずの体で通称「カミカミ(噛み噛み)」をじっと見つめている。

どうにか手をのばして試しに与えてやると、

しばらく夢中で噛み噛みしていた。妹犬が噛んでいる間、実はずっとほしかったのかもしれない。

 

 

穂の名を迎えて今日で7年が経つ。

私の人生を変えた犬、と自分が死ぬ間際まで思うことだろう。

 

ああ、今日は幸せだった。

いつまでも会話をしよう。穂の名へ。

元気に長生きしておくれ。

犬