キツネ

先日、穂の名といつもの公園を散歩していると、数十メートル先をキツネが横切った。

ここで見かけたのは初めてだ。

穂の名はすぐに気が付いて、吠えながらダッシュし、

キツネが消えたイネ科の叢に飛び込んで、いつまでもにおいを嗅ぎ続け、

顔を上げてはキツネが走り去った方向に向けて吠え、興奮がやまなかった。

最終的にハーネスを掴んで、いつもの道、いつもの穂の名に戻ってもらったわけだが

それほど驚かず大事に感じなかったのは、予感があったからだろう。

以前からこのあたりを歩くときはいつも、穂の名の嗅覚センターが反応して

それに呼応したしっぽがブンブンブンブンうなり喜ぶ姿を見ていたし。

それもそのはずで、

この公園の裏側は車がすれ違うことができるくらいの車道をかねた堤防があって

堤防を越えて下におりればすぐ北上川の川岸だ。

第一級河川の川岸は広すぎるくらいで、田畑や歩道が点在する以外は鬱蒼とした森のよう。

特に今時期は木々や草藪がより繁茂しているので、鳥獣の姿ははたからは見えないがだからこそ

そのさまを見れば、私たちのとなりには常にキツネやタヌキやイタチの類がそりゃいるだろうと得心する。

気になるのは、私たちが目撃した個体は体が小さかったので子ぎつねに見えたことくらいか。

 

後日、いわゆる犬友さんと同じコースを歩いていたのでその話をしたら、

私も見ましたと言う。

それどころか、散歩をしている彼女たち(一人と一頭)についてきたのだそうだ。

「犬のおやつをあげてる人いるんですよ…」と眉根をひそめて彼女は言った。

別にその表情を真似たわけではないのだが、つい私も同じ顔になって

「罪深いことをして」「無責任な」「そりゃ車道を越えて来るさ」と業腹した。

同じイヌ科の食肉獣のキツネには、犬のおやつがたいそうごちそうとなることだろう。

エキノコックス症など、キツネが媒介する犬の感染症もあるというのに。自分で自分の首を絞めるとはこのことだ。

 

彼女が出会ったキツネと私が見かけたキツネはおそらく同個体だろうと思うが、

時間軸はどちらが先であったのだろう?

願わくは、穂の名の方があとである方がよいと思った。

おやつを求めて出かけたら、

大きな犬に吠えられて追いかけられる。この経験があのキツネの子を長らく生かしてくれるだろう。

穂の名、穂の名。ああいうときは吠えていいぞ。