マスタケ

岩手に戻ってきてから7年が経った。
大学進学で当たり前のように東京に出て、卒業後も当たり前のように東京に居着くのだろうと思っていた18才だったが、それから十五年後の現在、私はここ岩手にいる。

こちらの人と話すごとに、ことばの引き出しも大きく変わった。
年代を問わず、出会う人の多くは農家の方やそれに携わる仕事の人が多かった。地域芸能に携わる人々や草木を染める人々も多く知り合った。山にのぼる人々や海を楽しむ人々、食に携わる人々、復興事業に携わる人にもたくさん出会い、話した。

季節や天気のこと、植物のこと、植生のこと、自然のこと、自然と人のこと。
意識なんてしてなかったけれど、私のことばは地に足がついてずっと豊かになった。ずっと暮らしてきた方ほどは詳しくはないが、それなりに私も知識を得たつもりだ。

ところが今日話に出てきた「マスタケ」は、全く聞いたことがなかった。

きっかけは、犬の散歩がてら顔見知りになった近所の食堂の献立だ。
昨日、弁当をテイクアウトし美味しくいただいたのだけど、一つだけ、どうしてもわからない食材があった。

見た目はほんのり焦げてキツネ色になった蒲鉾のよう。
だけど食べてみると、固いし水っぽいし、それでいて筋ばってぱさぱさしている。

次会ったときに絶対に聞いてみようと思った翌日、オーナーのKさんにまた会えた。

グレイヘアの超短髪に赤リップがとてつもなく似合う。

昨日のおかずが一つだけどうしてもわからなかったんです、と伝えたら
Kさんは軽くこくんと頷いた。よく聞かれるのかもしれない。

「あれはマスタケって言うのよ」とKさん。
英名だとチキンマッシュルームというそうだ。
あの食感、味、舌触り。納得だった。

ちょっと立ち寄るつもりが立ち話。

キノコひとつ、植物ひとつ、天気ひとつ…etc
そういうちょっとしたことで話題が尽きないのがこちらのいいところなんだよなと改めて思った秋の日だった。

 

マスタケ