人工孵化場

サケの人工孵化場を訪れる機会があった。

まずは縦の長さ25メートルほどの小さなプールを想像してほしい。

そのレーンをそれぞれ足場20~30センチメールの厚さのコンクリートで区切ったような孵化場が

上段に6レーン(という単位が正しいのかはわからないが)、下段5レーン並んでいる。

近くの川からポンプで水をひき、できる限り電力を介さず自然な形で水が循環されていく。

私が訪れた時は下段は既に放流済みで、水は入っていなかった。

上段もサケの稚魚が残るのは3レーンのみだった。

そのうち2レーンはまだ小さかったが、残りの1レーンの稚魚は7センチほどに成長していた。

 

かねてから私は、孵化場の収入の仕組みを知りたいと思っていた。

昨今、サケの不漁が指摘され、回遊から帰って来ないことが問題視されていた。

私の幼稚な頭が考えていた算数はこうだ。

川を遡ってきたサケを捕獲し、腹を開ける。

一尾あたりのサケの卵一房に300もの卵子が仮にあるとすると、

10尾では3000もの卵子を人間は手にすることができる。

孵化場では、それらの卵子を無事に孵し、十分な栄養価の餌を与え、

健康良好にして、海遊から戻ってくる確率を少しでも上げる。

そして翌年、そのうちの50尾が戻ってくる。

はじめたったの10尾であったサケ(しかも自然物だから入手のための出費はない)が

5倍の数になって帰ってきた。

それでは翌年は、50尾分の腹を開けて15000の卵子を手にし、十分に育てれば、また倍になって帰ってきますね

というような。

 

ところが実際には全く、みっともないほど的外れなこと極まりなかった。

そもそも、サケが戻ってくるのは放流してから3,4年後である。

つい一年換算で収支を考えていた時点で生きる時間軸が根底から異なる。

自分の発想の狭さに人間しか感じられなくて少し落ち込む。

 

孵化場は、国からのお金で成り立っている。

つまり、今年も規定以上(今年は6.5センチ以上2.5グラム以上)を満たした稚魚をどれくらい放流したか、

その監査が通ってのち運営元の漁協にお金がおりるのだという。

孵化場の主要な収入源はそこだというのだ。

※孵化場によっては漁協を通さず、直接運営しているところもある。

 

 

生き物相手の仕事(主に第一次産業)の経済面について、もっと広く視野を持ちたいと思う出来事であった。

 

人工孵化場