友人のショートヘアーに髪飾り。
ではなく、テントウムシ。
手で掴んで離してやったら、見慣れぬ赤い汁が指の先についている。
排泄物の類かと思ったが、どうやら頭部の両目のような部分から同じ色の液体が滲み出ていた。
匂いを嗅げば、草くさい。
葉っぱを食べるクルミハムシ・ドロノキハムシ・ヤナギハムシの幼虫を食べるのだから、
テントウムシは肉食動物(これでも!)ながら間接的に草食でもある。
この液体の匂いから小さな食物連鎖を感じる。
そして、さては、こいつは私を捕食動物だと思ったのだな。
鳥に間違われるのは私にとっての幸福。
カメノコテントウといえば、もう一つ思い出がある。
昨年秋、遠野市の板澤しし踊りを見たときのこと。
カンナガラのついた鹿兜をかぶせてもらえる機会があった。
頭部だけで支えるには重く、ましてこれで舞うとは…と尊敬が増したことを覚えている。
その日の夜、家でパソコン作業をしていると、
私のどこかからぽとりとテントウムシが落ちてきた。
カメノコテントウ。
調べてみると、秋冬はドロノキに身を寄せて寒さをしのいでいるのだとか。
ああ、ドロノキ。
鹿兜のカンナガラは、確かドロノキの樹皮でつくられていたはず。
舞の荒ぶりで起こされ、それから私の肩に偶然落ちてしまったのだね。
けれども、ああ、しまった。
私の庭にはドロノキはない。
ということで、数日ほどガシャポンの球形の透明ケースに湿らせたティッシュを入れてやり
暗がりに置いて様子を見ていた。
が、この家は暖かすぎて、冬眠どころか餌を食べねば死んでしまうのではないかと思い当たる。
結局私は寒空に、このカメノコテントウを離してやった。
ドロノキは難しいかもしれないが、クルミやヤナギくらいであれば少し飛べばたどり着けるだろう。
暖をとれるかはわからないが、無事冬を越えればそこにハムシの類も現れるはず。
そうすれば、きちんと食事もとれるし、つがいも見つけて子孫も残してくれ。
などと感情移入をしかかっていた己の心を振り払うべく、あれこれと手放す理由を言葉でたくさん飾りつけて。
そういえば、この時のカメノコは赤い汁を出さなかった。
ぬくぬくとさせすぎたのかもしれない。