今に始まったことではないが、私の寝床がある部屋の壁の中には獣の何某が住んでいる。
外壁と内壁の間、天井、床下その他。それはもう縦横無尽に動き回るのだ。
夜行性なのだろう、決まって
私が床につく頃合いになると、彼(や彼女)はタカタカタカタカ忙しく駆け始める。
雨の日や雪の日、気温が低い日などは特に必ず来るようだ。
私の犬は、足音がし始めるより先に奴の存在の察知する。
私のとなりで寝ていても、気配を感じると起き出して鼻をひくひくとさせる。
そしてベッドから下りると、床と内壁を結ぶちょうど直角の境目に自分の鼻をぎっちりと押し付けて、
ふしゅうーーーーふしゅうーーーーーと大げさな音を立てながら獣の匂いを吸引する
ある時は、ネズミのような甲高いちゅーちゅーなる鳴き声をたて、
私を暗くおののかせた。私が知る限り一番こわい動物。ネズミ。
また、ある時は、まだ明け方4時くらいだったろうか。
じたばたもがく羽音と、ピギャーーァァピビッピジッジピピピピャーアxピギギギギギキ
という尋常ならざる小鳥の悲鳴で目がさめた。
しかもそれが私の頭上の縦・横・ななめ、壁や天井をあっちにこっちに移動しているのである。
耳を澄ますと、その断末魔の隙間にぐるぐるぐるぐるぐるる、ぐるぐるぐるぐるるという声もする。
のどを鳴らす猫のような声。
長らく、どこから入って来ているのだろうとその侵入ルートを探していたのだが、今日、ついに見つけた。
出窓と石壁の継ぎ目の角がもろくなり、穴があいていたのだ。
小動物ならどなたでも歓迎と言わんばかりに。
犬にその穴の場所を指で示す。
するとすぐに残り香を見つけ立ち上がり、クンクンと鼻を寄せ納得したのち、その周辺の地面の匂いも追跡し始めた。
何度も見かけたことがあるハクビシンだろうということで、
要らない段ボール紙をまるめたものをいくつも詰め込み出入口をふさぐ。
今は昼だから、多分中にはいないよね?と母と確認しつつ。
私たちだって別にこいつを壁に閉じ込めて生き埋めにしたいわけではない。
犬の嗅覚を持っていればその在・不在を確かめることもできるが、
私たち人間の小さな鼻腔でそれは不可能だ。
「ハクビシン、この中にいる?」
穂の名(犬の名)にイエスなりノーなり言葉を仕込んでおくべきだった。
その晩、私はすぐにハクビシンの動画を検索した。
動物園で飼われているハクビシン。
思っていたよりもずっと可愛らしいのは生まれた頃から人間に飼われ、十分にご飯を与えられているからだろうか。
飼育員さんの観察記録。
・威嚇するとき 甲高い声。ちゅーちゅー。ぢゅーぢゅー。
・飼育員さんの手に甘えるとき、遊んでほしいとき
ぐるぐるぐるぐるぐるる、ぐるぐるぐるぐるる
↓猟犬ごっこの穂の名と、穂の名のまねをするアウラ