ユリノキの花を投げこんだ

そもそも、私とユリノキの花との邂逅は祖父を送った日であった。

祖父はユリノキが好きだった。

私の弟もユリノキに捧げた名を祖父から与えられているし、祖父の句集の中にも幾度も登場している。

 

祖父と別れ、いよいよ棺をしめるという宣言が葬儀屋によってされたとき、

私ははっと思いついて庭に駆け出し、ユリノキの花を探しに出た。

ユリノキの花は花びらから散る。よって花ごと落ちるのはとても珍しい。

けれど、その日その時は奇跡的に、何のいたずらによってか、

玄関から出た離れのすぐそばに、花だけが一輪落ちていた。

 

今思えば、私がユリノキの花をちゃんと見たのはあのときが初めてだ。

魔法の色をしている。あのときからずっと、私はこの花の色が好きなんだ。

 

このとき私は風だった。

玄関の扉は開け放して、地べたに落ちたユリノキの花に颯爽と駆け寄る風。

拾い上げるや否や、速度を落とさず振り返って駆け出したとき、きっと私の後ろにはつむじ風が起こっていたに違いない。

魔法の花を手にもって、祖父が待つ和室へ走る風。

家族は別れの言葉を言い終えて、今にも棺をしめるというときに吹き抜けて

光り輝くユリノキの花を祖父の懐へ投げこんだ。

 

白い装束に花を一輪、祖父のみちを照らすように。

 

ユリノキの花を投げこんだ