ハニーサックル

私の家もまあまあ古いが、同じくらい古い家がご近所にある。

が、いつの頃からかそこには誰も住まなくなった。

人間が住まなくなったことを植物はどのようにして知るのだろう。

柏の木はみるみる枯れ、代わりに生垣であったイチイの木は

今まで刈り込まれていた鬱憤をここでいきおいよく晴らすように

めりめりと巨大になり、板を並べ合わせたその家の囲いを押し倒さんばかりである。

かつては路上に水平であり由緒正しく澄ましていた木造の門構えも、

通りかかる人間たちを脅すかのように、斜めに傾ぐ有様だ。

 

今や空き家となったその家を左に見て、

何とも見事な覆しぶりだと感心しながら、2~3分歩くとわが家に着いた。

ハニーサックルの香りが漂っている。

 

わが家の庭は特段手入れもしていないのに、花々は知らぬ間に咲き、おのずから香る。

季節がめぐり、そのときがくれば――

太陽の角度やそれに伴う日照時間、日中の/夜の気温、湿度や降水量、その他ささいな出来事のすべてがハニーサックルのためにととのえば

変わらず花を咲かせ、ただみずからのために香るのだろう。

仮に、私たち人間がこの家からいなくなり、

庭の植物や木々たちがもくもくと真夏の入道雲のように際限なく化け物のようにでかくなっても

ハニーサックルの香りはいつもと変わらない顔をしてそよいでいることだろう。

自分だけ可愛らしいままであるようなふりをして。

 

 

 

 

ところでわが家に住まうクマバチも

ハニーサックルのかけがえのない相棒として、変わることなく未来永劫健在でいるのだろうと思っているがどうだろう。

先日、クマバチの巣穴(木材に穴をあけて生活している)に腰にくびれのあるハチ(に似た虫)が出入りしているのを見かけてしまった。

クマバチの幼虫が食らわれていたり、誘拐されたりしてないかしらと心配になった。