桑と包丁

先日のそば切り包丁。
刃に当てられた木片が力を加えるのにちょうどよく、ストンと思いのままに切られるいい包丁だった。
自分の手を操るように「思いのまま」。
いい道具の条件だと思う。
昔から長く使われてきた道具が自然に手になじむのが楽しく、私のそば切りも捗った。

聞けば、昔は桑の枝葉を切るための包丁だったという。

お蚕さんだ。
ところが、生糸を自分たちで撚っていたのかといえばそうではない。(もちろん中にはやる方もいたそうだが)
ここらに生える野生の桑葉で丸々と太らせた野蚕たちを、町で売っていたのだ。

そのような話を聞きながら、改めてそば包丁を扱う。
確かに、よく見れば刃の当て木だけまだ新しい。祖母のそば打ちのために、祖父がつけてやったに違いない。

わかったこと。
やわらかなそば地を切るには、ほどよく力を抜かないとそばの切り口がへにゃりと曲がる。
けれども、春夏の青い桑葉を枝ごとざくざく切るには、君ほど頼りになる刃はいまいということ。

 

桑と包丁