背骨

骨が落ちている。

岩手の山中やのっぱらでは珍しいことではない。

道すがら獣の骨を見たのは、これで三度目。

 

一度目は、まだ灰色の毛が残る大腿骨から蹄。後肢一本。カモシカだろうと思う。

二度目は、頭蓋骨と上下顎。奥歯のかみ合わせがすりつぶす仕様だったので草食動物。

もっとよく見たかったのだが、ちょうど預かっていたセッターが骨ごと咥えて噛み砕こうとしたのであわてて退散。残念。

そして三度目は今日。立派な背骨。ついているのは腰骨かと思ったが、

ビニル手袋をはめて裏返せばこれも頭蓋骨。下顎はなく、

眼玉は黒い小さな虫たちに早くも食い尽くされて空洞だった。

蠢く空洞と目を合わせる。

私は、おまえはだれなんだろうね、と問うた。

 

祖父は、数日前はもう少し先、奥の神社の鳥居の近くにあった骨だと言った。

だれかが運んだ。あるいは、

うごいたのか、おまへ。

 

脊髄の観察。

背骨