イワウチワを植える

夕方から本格的な雨になるというので、植えるのなら今日中にしようと思った。

 

4月の初めに植物屋から連れて帰ったイワウチワは

あれから3週間も経つというのにまだわが庭の土壌に降り立っておらず、

仮初の販売用カップに居ついたままであった。

だが、黒いビニル製カップであっても、意外と居心地はよかったらしい。

水だけは存分に与えてやっていたのもよかったのか、日当たりのよい鉢台に並べられて今日も溌剌としていた。

 

怠惰の上から蔦まで絡ませた私の重たい心身をよっこらせと起き上がらせ、

イワウチワ3株と移植ゴテ、それから腐葉土を抱えて裏の庭に参じた。

イワウチワの花は購入時には既に終わっていたが、

丸のような四角のような形の葉が愛らしくてまた好きになる。

一見小ぶりな葉なれど、ぎざぎざとした縁のせいか葉脈の主張の強さのせいか

癇癪もちのような印象もあって、それがなんだか好ましい。

 

半日陰で、排水の良い土。

この野生の庭ではどこが一番いいのかな

私のそばで駆けては戯れる穂の名に聞いてみたりする。

 

こうしてみると、私の植物嗜好はこの庭の自然体も相まって

素っ頓狂な直観を余すことなく試すことができる遊び場が身近にあるゆえにもたらされている気がしている。

熟練の園芸家になりたい野望はまるでなく、

いろいろな偶然と運が重なって、次の季節もその次もこの地に根ざしてくれたら万々歳。そんな

放任主義的楽観性だけをよすがにあれこれとほしい植物を持ち帰っては植えているところがある。

 

あちこち見まわし、それなりに土や植物を観察し

ようやくイワウチワの生育環境に合っていそうな場所を見つける。

移植ゴテでざくざくとめあての土を掘り始める。

掘り進んでいる途中、周囲の草草の根や蔦植物の歪曲した根、

私の人差し指の太さほどもある木の根などに行き当たる。

来年の春は花をつけてほしい一心で、ぶちぶちとそれらの根を移植ゴテで断ち、

または手で搦めて引きちぎる。

植物を植えるのは楽しい。土に直接触れるのが面白い。

 

ひと段落ついたあと、販売用ビニルカップから3株とも取り出してみて気が付いたのだが

イワウチワの根はいずれも非常にこじんまりとしていた。

葉茎の広がり方と比較すると、予想していた半分ほども根がのびていない。頼りない。大丈夫だろうか。

水はけをよくするためか、細かな軽石しか入っていなかったので

そのせいかもしれない。

私の庭にここぞとばかりに根を張ってくれ。

 

元の土と、園芸用の腐葉土をかぶせ、3株全て植え終わる。

満水のじょうろから、たっぷりたっぷり水を注いでやる。(シャワーのノズルがついたホースより、じょうろで水を与える方が断然好きなのはなぜだろう)

あと数時間もすれば、雨が降るがその前にお前たちにだけ特別に。

50センチ四方足らずのごく一部分の草土だけ、彩度が増して色が濃くなり生き生きとする。湿らされた土の香りがほのめき立つ。

水を与えてやっているという全能感に酔いしれつつ

思い出すのは先ほど目にしたイワウチワの根の貧相さであった。

雨で流されないといいなと思う。明日、雨が止んだら見に行こう。

 

 

予報通り、日が沈んでからこっち外では雨音が続いている。

4月半ばとはいえ、雨が降るとまだまだ肌寒い。

意気地がないので、床暖房のスイッチを押し甘えている。

天井でばたばたと音がする。ハクビシンだ。

春になり、暖かくなってからすっかり音沙汰がなかったが

雨風にからだが冷えたのか久しぶりにやって来た。

害獣扱いされているハクビシンだが、

「今日は寒いな。久々にあの家に行くか。あったかいんだよな」と

毎回わざわざ思い出してくれているのかと想像したら悪い気はしない。

 

イワウチワを植える