なぜユリノキの花が咲かなかったのか、素人ながらに考えている。
ユリノキの養殖家よろしく、窓際にユリノキの枝を挿した花瓶をいくつも並べ、
すべてのつぼみが開花することを待ち望んでいたというのに。
だが、つぼみは咲けなかった。水腐れをしたり、枯れたりしていた。
私が不思議なのは、つぼみが駄目になっても若葉は次から次へと生まれ出ていたことだった。
若葉は枝のすきまから次々とコンニチワなんて言いながら顔を出して、
一定の大きさまではすくすく生長していた。
ユリノキは別名ハンテンボクと呼ばれるが、その名の通り、
小さな半纏があちこちに見えていたのだ。
つぼみは、葉とは異なる仕組みでその身をひらくことを知った。
そもそも、ユリノキは非常に多くの水を含む樹木だ。
伐られた幹からは水がしたたりコンクリートに流れ出ていた。「ナミダノヨウニ」とは人の言葉であったが。
これほどの水量であればもう若くないユリノキの幹が内側から腐るのも仕方がないと納得もした。
花瓶に挿したわが部屋のユリノキの葉にとっても、水が仇となったようだ。
若葉も含めてやがてはしおれ、あるいは葉脈からじわりじわりと茶色く湿気た。
葉緑体は植物のエネルギーの源であると中学時代に習ったが、葉が弱ったことで、畢竟、
これらの葉緑体がうまく働かなかったのかもしれない。
今思えば、若葉が次々と現れたのも、生き抜こうとしたユリノキの知恵であったのか。
あるいは、これまでは木のてっぺんにて葉を広げれば広げるほど、
めいっぱいに太陽を浴びることができていた。が、ここでは
家の中へと押しこめられて窓ごしにしか太陽が得られない。
つまり、単純に、太陽の光が不足していたのかもしれない。
水を汲み取り、上へと押し上げ、やがて気孔から水蒸気を吐き出す機序は
その源たる太陽あってのしわざだろうが。
葉やつぼみが水腐れしていたことを思えば、日照時間の減少ゆえに
水の循環がうまくいっていなかったのかもしれない。
水が一つどころにとどまらぬこと、植物のからだ全体をめぐり、常に動き続けていること。
もしくは、花瓶が熱をもち、水の温度が高くなりすぎたのか?
夜でも水温が下がらなかったのか、セラミック製の花瓶はガラス製のものに比べて
早くに枯れたようであった。
全部、全部、推測だ。
ユリノキに話を聞けたら一番早いが不可能だ。
水、循環、太陽、熱・温度。浸透圧? キーワードだけは並べられたが。
観察だけではわからないこと。数値や単位、再現性。自然科学の端緒を思い知る。