結局、家に連れて帰ったユリノキのつぼみのうち、花を咲かせたのはあの一輪だけだった。
つぼみだけならたくさんついていて日に日にふくらんでいたのだが、
ついにどのつぼみも開かなかったのである。
花が咲いたら虫や鳥、風のふりをして受粉をさせて、
種子まで得ようとたくらんでいたが、策も術も何をも描けずに終わってしまった。
新品の筆先のようなつましい形をした若緑色のつぼみは
はじめは3、4センチかそこらしかないのであるが
次第にユリノキの花らしい大きさにまで生長するのは日々の観察でも見てとれた。
まるで蛹のように若緑一枚にくるりと包まれて、その中ですべての花の準備が進んでゆく。
やがて、まもなく開花という頃になると、若緑一枚は枯れたような色になり、
からりとめくれあがって落ちる。
すると中には花びらの輪郭――螺旋の切れめが幾本か走る淡い緑色をした真のつぼみが現れて、
見る者を惚惚とさせる。
ユリノキの花びらは緑みを帯びた黄色をしていて基部にオレンジ色の斑紋があるのが特徴であるが、
まだおぼこいこの時期のつぼみは、黄緑色の花びらで斑紋も白いままである。
空を仰いで咲くべく咲くべく、徐々に黄色に色づいてゆくのがいい。
だが、部屋に連れ帰ってきたユリノキの枝枝のつぼみは
ついに開花はしなかった。
無事にひらくが、そのまま枯れるものも多くいた。
あるいは、咲けずに、開けずにいたものは、
とじた筆先の形もままで基部が水で腐ってしまっていた。
なぜだ?