ちゃま

午後からアウラがやって来た。

母が留守なので、穂の名とともに庭に出してやる。

穂の名8才、アウラちゃま3才。

5才下のアウラは、「もってこーい」を延々とするのが大好きな犬。

 

今日は、縁側の下のスリッポンを片方くわえてやって来て、これ投げてという。

投げてやればダッシュで取りに行き、スキップしながらもってきて、私の足元に落とす。そしてまた投げてはもってきて、私の足元に落とし、また投げてはもってきて、投げてはもってくる。応じずにまだやるのぉ?と思っている間に距離をつめてきてスリッポンをぐいぐいと私のからだに押し付けてくる。

穂の名は、アウラのうきうきに巻き込まれない距離を保って

私のそばでニコニコしながら控えている。

 

しょうがないなあと言いながら投げた次の一投。

芳しくなく、ああと声をあげているうちに屋根の上に上がってしまった。これはとれないなあ。

ということで、「よし!おしまい!」と声をかける。

 

が、アウラの中ではちっとも終われないのである。

途中まで目で追えていただけに、屋根の上にのっかった!屋根の上にのっかった!

あっちそっちの壁面に前肢をかかげ背のびをしてみたり、

まわりこんでみたり、とにかく思いつく限りの見当違いの選択肢をあーでもないこーでもないと試している。

頭の中がスリッポンでいっぱいなことがよくわかる。

そのうち、一所懸命に夢中になりすぎてヒートアップしてきたので、ひらめいてアウラに声をかける。

「アウラ、あっちにあったよ」

 

縁側までアウラを伴なってゆき、

残されていたもう片方のスリッポンを見せてやる。ほら、これでいいでしょう。

だが話はそんなに単純じゃなかった。

アウラは一瞥しただけでにおいすら嗅がず、

「ちがう!!!!!!!!!!!!!!」と全く意に介さない。

「あれ」は上にあるのっあれがほしいのっ

と言わんばかりにまたあせあせとアウラなりに右往左往と頑張ってる。同じなんだけどなあ?

 

そういうことならと、またアウラに声をかける。

残された片方のスリッポンを見せてやり、「ホラ!」と屋根の上に放ってやる。

今度はちょっとだけスリッポンの一部がアウラの目線からでも見えるところに投げることが重要で

ちょっとしたコントロールが必要だったが幸い功を奏した。

それから適当な長さの木の棒を手にとり、アウラの目の前でスリッポンをつんつんとつついたり角度をかえたりひっかけたりして、ようやく屋根の上から無事落としてやる。

これでもやっぱりだめかなあ?と思いながら、

茶番さながらに「ほら、とれたよ」と言って手渡してやる。

 

…………!

 

そのときのアウラの顔といったら!

目をきらきらと輝かせて、無邪気な信頼を顔全体に隠すことなくあらわにして。

満願の大きなお口でスリッポンをくわえて、ワーイ!と駆け出していく後ろ姿の何とも可愛いかったこと。

 

何だかとぼけたエピソード。