心静か。
高さ3センチにも満たない草草が、目の先にゆれている。
まるい葉の大小、つるの首のような細い葉、地べたに生えたリボンの結び目のような双葉、ぎざぎざの葉、、
高さの満たない草草が目の先に、それぞれのリズムでゆれている。
まるい葉 弾むように
細い葉 指先でなでられるギターの弦みたいに
双葉 仲良くゆれて
ぎざぎざ 不動のたたずまい
そよとも吹かぬ見えない風か 地べたをながれる小さな大気で葉がゆれる。
あるいは地べたに伝わる振動 どこかの木から葉が落ちる 枝が落ちるときの。
もしくは近くの木から鳥がぐんと飛び立ったときの物理が根っこに伝わって。
野良猫の抜き足差し足 遠くの人間の革靴 石ころを蹴ってコンクリートで割れたとき 赤んぼの地団太
今日は雲がよく動いているが、あの大気圏の雲だって、
いつかこの3センチにも満たない草草がゆれる直接の動機になるかもしれない
私の後ろで音がする。
ともかくかすかな。水面に小石を投げたときのように、
まだ新芽も生えないツツジの枝と枝のあいだの1センチ足らずが何かの影響で触れ合ったとき
その振動が、ともかくかすかな、ささいな音が
となりへとなりへと伝播して、静かに確実に現象を動かす。
その物理が、そこから15m先のナラノキの実を一つ落とすことだってあり得るのだし
そしてこういうことはいつだって、同時に無数に起きている。今も。
私は草草を見つめながら、地球が始まったばかりのここの地べたを想像する。
あの日から、一度だって何ものも動かない一瞬というものがあったのだろうかと。
波、空、風、地、小さき生きものが一切動かぬ一瞬というものが。
本当にそのような沈黙が訪れたとしたら、その静けさに私は感激するのだろうか、
それとも絶望するのだろうか。
(無論、私の髪さえそよがない、あるいはいない)