紅菜苔

こんなに美しいのなら、食べようなどと思わずに

ただ生けておけばよかったと

ぐつぐつとなる熱湯に放りいれてから思い至った。

 

コウサイタイ。

茎は美しいアントシアニンの紫色、

花弁は黄色く、葉はみどり。

もって生まれた美しい自然事象のコントラスト。

 

色もちをよくするには、お湯に酢を足すといいと

スーパーマーケットで目にした紙が言っていたので素直に応じる。

湯がいてなお、はっとするほど美しい。

 

湯を通せば、草のにおいがむんむんして

お湯の色は瞬く間に美しいむらさき。

その中でおたまをもって佇む私は、さながら魔法使いの気分。

色づいた湯をのめば、たちまち変身できそうな。

 

現実が90秒経ったので

さっと取り出してみれば、あのむらさき色は褪せ冷めて、

魔法の色水も水切りすれば排水で

味はどうかと一口噛めば筋が残っていたものの

菜の花の仲間だからか悪くはない。

けれども、余韻は既に去り、魔法はすっかりとけてしまった。

 

紅菜苔