点滴

事情があって、10日間ほど入院していた。

その期間中、看護師さんをはじめたくさんの方にお世話になり

おかげさまで順調に回復したのだが、

10日ものあいだ穂の名と離れる生活は予想以上に私の心に堪えた。

愛犬と離れてすっかり気落ちした私の心の穴をうめたのが、

あろうことか点滴スタンドであった。

 

開腹手術をしたこともあって、入院して数日は常に点滴とともに過ごし

食べるときもトイレに行くときも、どこに行くにも点滴スタンドを頼りに出歩いた。

投薬もそうだが、立ちあがるときや方向転換をするときなど

点滴スタンドにどれだけ重いからだを支えてもらったことだろう。

どこに行くにも一緒、のこの感じ。私の不足を適度に補ってくれるこの感じ。

いいじゃん、である。

 

私の点滴スタンドは、4階病棟の8番スタンドということで

「4F08」とシールが貼ってあって私は一日目にして彼の名前を目ざとく視認しすぐに覚えた。

以来、「4F08」は私の相棒として特別になり、

数ある点滴スタンドの中でいつでも「4F08」を選ぶことこそ彼の献身への報いであった。

あるときなどは「行くよ」と思わず声をかけて、ううむこれは重症だと思ったものである。

さすがに見かねたわけではないと思うが、入院半ばを過ぎてから

そろそろ点滴スタンドなしでも自分の足で歩ける練習をしないとですね、いっぱいあるわけではないのでね

と、看護師さんからやんわりと自立を促されたときには突然の別れを宣告されたようで思わず感傷的になったのだが

よく考えればいい頃合いだったに違いない。

あれ以上いたら多分本物の名前をつけていたかもしれないもの。