紫墨の

陽が暮れかけて、わが家の庭も紫墨に沈む時分。
「かぁかぁかぁかぁ」と一羽のカラスの声。
私はすぐさま読んでいた本をとじて、カーテンの隙間から外をのぞいた。隣家の桜の大木にうっすらとカラスの輪郭。何せ薄暗いのでぼんやりとしか姿が掴めぬ。今鳴いたのはあのカラスだろうか、他にいるのかと頭を少しばかり乗り出し、視線を向けたら件のカラスは飛び立ってしまった。

カラスの濡羽色。羽の中にメラニン系の色素を含む
構造があり、さらには羽毛の表面のケラチン層が光
を散乱・干渉させて構造色を発生させる。それが、
紫や青に変化するメタリックな光沢になる。

先ほど、本で得たばかりの知識。
ということは、光がなければカラスはやはり黒色でしかあり得ないのか。黄昏れ時の、紫墨色をしたカラスも美しかろうと思うのだが。