墨のカラス 光のカラス

墨のカラス

畑や田、河原を歩くハシボソガラスを遠目に見る。秋になり、収穫のこぼれ種や穂の花、実、虫たちなど、大きくも小さくもさまざまな食いものにありつける季節。黒一点。色づく葉や鮮やかな実や種のなかでカラスの黒さがありありと目立つ。半紙に染みわたる墨の如く、他を一切寄せつけぬ色。

光のカラス

ヤマボウシの木にカラスが二羽とまっている。番だろうか。このヤマボウシはここらでは一番枝ぶりがいい、ゆえに実をついばみに来たのだろう。

私は数歩ほど離れたところから二羽のカラスを見上げる。昼が過ぎ、下りはじめた太陽の日差しがヤマボウシの枝を透かしてこちらに届く。枝の葉影がのびる。ということは私の影法師も長くのびているのか。

カラスはやはり番のようで、ヤマボウシの梢を互いにぴょんぴょん飛びうつりながら嘴で枝先をつついていた。時折顔を上げるのは、おそらく私の様子を窺っているのだろう。何もしないよ。見ているだけ。

私は見とれていた。秋空の碧を背にしたカラスの軀が光を映して空色に碧く光っていることに。枝の陰り、陽光の斜度、空、カラス。どういった偶然が重なったのかはわからぬが、空色の光を反射する彼等の姿の何と美しいこと。

番の碧いカラスたち。