買い出しが終わり、駅発の周遊バスを待っていた。
ニュースでは梅雨に入ったと言っていたけれど、からりと晴れたいい天気の日和だった。
年相応の会話で戯れているのは、前に並んでいる修学旅行中の中学生たち。
同じバスを待ちながら、ほとんど形容詞だけで会話をしている。
同中らしい他班の女子が、通りすがりに(いつかの会話の続きだろうが)
スパッツだから、と言ってスカートの中を私の目の前の男子学生に見せつける。
齢十四らそこらの彼らは、顔をしかめながら憎々しい類の形容詞をぼそぼそ投げかけて白目をむいて見せた。
立ち去る女学生らの、ただ束ねただけの生まれながらの黒髪が美しい。
校則なのだろうか、生真面目な真っ黒いパッチン髪留めでおくれ毛一本すら逃さない後ろ姿。
青い人々だなあ、と思う。青空を背にしていたからというだけでなく。
ようやくバスがやって来た。
私たち一列は、バスが入り込んできたのを確認するや否や、
細胞を同じくする一匹のイモムシのように同時にもぞもぞと動き出した。
めいめいに、タイルにおろした重い荷物を担いだり、カバンから財布やカードケースを取り出したり。
乗客がおりきったら私たちの番だ、とイモムシらしく無数の対の足をそわそわと勇み動かす。
停車したバスの昇降口からすらすらと乗客たちが吐き出されてくる。
バスを待つ人間の中には私のように使い慣れている者もいて、自分たちのタイミングでそろそろか、と一歩前に出始める。
が、まだ私たちのための扉は開かない。
まだ中に乗客がいるのだ。
窓ごしなので定かではないが、おそらく初老ほどの男性が何やら重い荷物を両手に抱えてゆっくりとバスの奥から歩を進めている。
重いだけではない、ずいぶん大きな荷物のようだ。
ほとんど横歩きに斜めになった体勢で、やじろべえのように右に左にゆれながら大仰に進む影が見える。
支払いのために一度両手の荷物を置いたところをみると、よほどの荷物なのだろう。
駅で降りるのだから、スーツケースやみやげものなどを買い込んだ旅行者なのかもしれない。
支払いを済ませた男性が再び荷物をヨイショと手に取るさまが
彼の背中ののっそりとしたそり返りから見てとれた。
再びいかにも不自由そうにからだを斜めに傾けながら、のそりのそりと最後の乗客が降りてくる。
紫陽花だ。
男性が大鉢の立派な紫陽花を両手にさげて、天秤さながらに降りてくる。
白地に花びらの縁が強がりのピンクで染められた紫陽花で、
右手の鉢も左手の鉢もまだ五分咲きにも満たない。
ただ、よくある風物詩のように「梅雨に紫陽花」とまとめあげるにはあまりに痛烈で
梅雨をとびこえて全う真夏の色彩であった。
バスの車体には強い日差しが照り返されて。
紫陽花の男性は、そのまま駅の中に消えた。
あの大鉢二つを抱え、電車に乗って帰ったのだろうか。
今、自分に必要なのだという紫陽花。